密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
うれしそうなふたりを見ていると、こっちまで幸せな気分になるな。
頬を緩めたままカウンターに戻ろうと方向転換したとき、間山がゆらりと席から立ち上がり、店を出て行こうとするのが見えた。
「あっ……間山、もう帰るの?」
思わず声を掛けると、生気を失った青白い顔で振り向いた間山が言う。
「ああ。自分以外のみんなが幸せそうだと、不思議と筆が進むんだ……。帰って書くよ。俺にはそれしかない」
「そっか。無理しないでね、コーヒーならいつでも持っていくから」
「コーヒーなら、ね。雛は本当に俺の胸を深く抉るのが得意だなぁ……。ああ、早くこの凄愴たる感情を原稿にぶつけたい」
間山は遠い目をしながらブツブツとわけのわからないことを言って、店を出て行った。
彼が変なのはいつものことだけど、今日はさらに変だったな……。
挙動不審な友人を少し心配しつつも、私は注文されたドリンクを作りにカウンターに入っていった。