密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~

「す、すみません」
「……いえ」

 男性が短く発したその声に、私は顔を下げたままでどきりとした。

 似てる……玲士の低い声に。それに、ぶつかったときに少しだけ感じたウッディ系のフレグランスの香りも。

 しかし、私が顔を上げたときには、男性はすでにドアの向こう。姿を確認する間もなかった。

 ……気のせいだよ、気のせい。っていうか声も香りもこんなに鮮明に覚えているなんて、どんだけ未練がましいんだろう、私。

 うっかり思い出しかけた玲士との甘い記憶を振り切るように頭を振ると、私は間山のアパートへ急いだ。

「サンキュ、雛。この時間、煌人のお迎えの後でバタバタだったよな。気が回らなくてごめん」

 玄関先に出てきた間山は、いつものぼさぼさ頭にスウェット、半纏(はんてん)という、冬の執筆スタイルで私を出迎えた。寝不足なのか、トレードマークの丸眼鏡の奥に見える目がしょぼしょぼしている。

「別に大丈夫だよ。疲れた顔してるけど、今回の作品は難産なの?」

 バッグから出したコーヒーセット一式を手渡しつつ尋ねる。ポットだけ後で回収しなければならないが、間山は明日にでもまたコーヒーを頼むだろうから、そのときでいいだろう。

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