密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
「ああ。報われない恋を描いてるからな……主人公の心に入り込みすぎると精神がやられて筆が進まない」
間山はそう言って、いかにも神経質な小説家という感じに、乱れた髪に手を入れてガシガシ掻いた。
「あらら……。コーヒーもいいけど、ちゃんと寝なよ?」
「わかってる。でも、雛の顔見たら書けそうな気がしてきた」
少し瞳に生気を取り戻した彼を見て、私は口もとをにんまりさせる。
「じゃ、料金上乗せしていい?」
「……その反応。俺は今、まさしく作中の不憫な主人公に共感している」
なにそれ。間山は時々こうして自分の小説の世界に入ってしまうから、ついていけない。
よくわからないがとりあえず「元気出しなよ」と励まし、正当な料金を受け取って彼のアパートを後にした。
店に戻るとお客さんはすでに全員帰っていて、本来の時間より十分ほど早いが、兄は店を閉めた。
帰宅してからも色々やることのある私にとっては、十分早く上がれるだけでとてもありがたい。片づけや掃除をてきぱき済ませ、最後にエプロンを外す。