密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~

「帰ろう、ママ」
「うん。お兄ちゃん、お先に」
「気をつけてな」

 本当はこの後も売り上げの計算などこまごました仕事があるのだが、兄は気にしなくていいと言う。

 手伝おうとしても、『雛には、家に帰って煌人の話を聞いてやるっていう大事な仕事があるだろ』と、結局は帰されてしまうのだ。なにからなにまでイケメンな兄である。

「ママー。今日のご飯なに?」

 自転車をこいでいると、煌人が後ろから尋ねてくる。店から私たちふたりが暮らすアパートまでは保育園よりちょっと遠く、自転車で十分ほどの距離だ。

「ハヤシライスだよ。朝作っておいたんだ」
「わーい。ぼく、カレーより好き!」
「お肉は牛じゃなくて豚だけどね……」

 背後で喜ぶ煌人に聞こえないよう、ボソッとつぶやく。

 煌人はハヤシライスも肉じゃがも、さらにはすき焼きまで豚肉料理だと思っている。煌人の将来のために毎月コツコツ貯金をしていると、食事はどうしても節約メニューになってしまうのだ。

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