密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
「わかってくれたならいいの。……ところで、古い方の歯ブラシはどうしたの?」
「あげた。その人に」
「えっ」
「交換しようって言われたの」
一件落着、と思ったのもつかの間。煌人の口から飛び出した思いもよらぬ事実に、ぞわっと肌が粟立った。
男児の使い古した歯ブラシを欲しがるなんて、確実に危険な性癖の人ではないか。どうしよう、私の大切な煌人をそういう目で見ているんだとしたら。
「ねえ煌人、その男の人、見た目はどんなふうだった?」
「うんと……背が高くて、お仕事に行く格好をしてた」
お仕事に行く格好……スーツにネクタイのサラリーマンだろうか。そんな格好のお客さんなら年中来るから、あまり参考にならない。
「顔は覚えてない?」
「うん……ごめんなさい」
「そっか。じゃ、このお話はもう終わり。ご飯にしよっか」
「うん!」
正直、私の胸には不安が渦巻いていたが、それを煌人にまで感じさせてはいけないと、無理やり笑顔を作る。
気味の悪い歯ブラシは捨てようかとも思ったが、なにかの証拠になるかもと、洗面所の棚の奥にしまっておくことにした。