密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
『もう帰って、玲士』
『俺はまだ納得していない』
『お願い。私だって、あなたとの別れがつらくないわけじゃないの。……ひとりにならせて』
『雛子……』
彼はまだなにか言いたそうだったが、それを無理やり飲み込んだかのように唇を噛んで立ち上がり、私の部屋を去った。
扉が閉まる音を聞いた瞬間、私は泣き崩れる。目元を手のひらで覆い、小刻みに肩を震わせながら。
『さよなら、玲士……。どうか、幸せに……』
いつでも自分に自信があって、行動力と決断力を兼ね備え、ときに強引すぎるところもあったけれど、そんな彼に振り回されることすら楽しくて幸せだった。
生まれて初めての恋を、キスの甘さを、見つめ合うことの素晴らしさを、互いの肌に触れる愛おしさを、全部全部教えてくれた人。
大好きな、玲士。忘れられるはずがない。
鼻を啜って、窓辺に立つ。見下ろした道路に彼の姿を探したが、すでに立ち去った後だった。
歩道の街路樹の枝には、見る人の心を浮き立たせるたくさんのイルミネーション。
しかし、その光は私の孤独感を刺激するばかりで、とめどなくあふれる涙が美しい景色をぼんやり霞ませ、やがて見えなくしてしまうのだった――。