密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
やがてこちらに戻ってきた兄は、床に縮こまったままの私を見下ろして言った。
「オーダー。雛の淹れたブレンドだって」
「えっ?」
怯えたように聞き返すと、兄は苦笑を浮かべた。それから私の頭にポンと手を置き言葉を続ける。
「嫌なら俺が淹れて持っていくけど……どうする?」
私はうつむいて逡巡する。
玲士はどういうつもりなのだろう。正直、このままここに隠れていた方が気は楽だけれど……あえて、平気な顔でコーヒーを淹れて持っていった方が『あなたのことはとっくに吹っ切れています』という意思表示になるんじゃないだろうか。そうだ、そうしよう。
「大丈夫。私が持っていく」
「そうか。なにかあったらすぐ呼べよ」
兄が見守ってくれている心強さもあり、私は意を決して立ち上がった。
スプリング・デイのブレンドは、苦み、酸味、香りがほどよく調和した、中南米原産の豆を複数ブレンドしたもので、両親の代から受け継いだ味を私が少しアレンジした。
注文を受けてから電動のミルで豆を挽き、ペーパードリップ式でゆっくり丁寧に抽出する。