密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
サーバーの中で膨らむ粉を無心で見つめ、立ちのぼる湯気の芳醇な香りを嗅いでいると、さっきまで動揺していた心が落ち着きを取り戻していく。
今の私にとって、一番大事なのは、煌人だ。今さら玲士が会いに来たって関係ない。これからも煌人との穏やかな生活を続けていくために、何食わぬ顔で彼にコーヒーを出す。
それで、終わりだ。
私は渾身の一杯をお盆に載せると、玲士のテーブルに近づいていく。チャコールグレーのストライプスーツを纏った彼は、ゆったり足を組んで窓の外にぼんやり視線を投げている。まるでファッション雑誌から飛び出してきたような、圧倒的オーラと美しさ。
私はつい見惚れそうになる自分をたしなめるように、小さく首を振った。
「お待たせしました」
声が震えないよう努めながら、彼の前にソーサーとカップを置く。窓に向けられていた視線がコーヒーに移動し、それからゆっくりと上がって私の姿をとらえた。
思わず心臓が飛び出しそうになるが、顔に出さずに小さく会釈だけしてテーブルの前から立ち去ろうとしたそのとき。
「雛子」