密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
あまりに横暴なその行動にふつふつと怒りが湧いてきて、私はキッと彼を睨みつける。
「いくらなんでもこんなやり方はないんじゃない? それに、怪しい男からもらった歯ブラシなんて使うわけないでしょ。いくら新品に見えてもどんな毒が仕込んであるかわからないんだから」
「〝怪しい男〟か……。やっぱり、気づいてなかったんだな」
なぜか寂しげな笑みを浮かべる玲士に、私は首を傾げる。
「気づいてないって、なにがよ」
「覚えてないか? 店の前で男とぶつかったこと。……あれは俺だ」
私は心の中だけで「あっ」と声をあげた。
たしかにあの日、配達に出かけるために店のドアを出たところで、男性と肩がぶつかった。そのとき聞いた男性の声や一瞬漂った香水の香りに玲士を感じたのは、気のせいではなかったんだ。
「俺はあのとき、一瞬とはいえ雛子に触れて、胸が締めつけられたよ。強引に顎を掴んでキスしてしまおうかとも思った」
「ちょっと、なに言って……」
玲士の口から突然飛び出した〝キス〟という単語に、思わずどきりとする。
でも、彼がこうして思わせぶりな発言をするのは、なにか目的があるときだ。過去の私もまんまとそれに騙され、利用された。……彼のビジネスのために。