密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
自分の身になにが起きたのか理解しきれず、思わずつぶやいた次の瞬間。
「すげぇな。あれが煌人の父親か……。雛ちゃん、意外と面食いだったんだな」
空席だったはずのすぐ後ろのソファからぬっと顔を出した佐古田さんが、髭を撫でながら感慨深そうに言った。
「ちょっ。佐古田さん、なんでそこに」
「でもたしかに、目元とか似てましたよね。しかしどうするんですか雛子さん。プロポーズ」
隣には興奮気味の稲垣さんもいて、鼻息を荒くしてそう尋ねてくる。どうやら彼らは私と玲士の会話を盗み聞きしたうえ、この状況を面白がっているようだ。
「……断るに決まってるじゃないですか」
自分に言い聞かせるように、ハッキリ告げた。
一度は愛した相手だが、今の私は玲士を信用していない。帰国してすぐの頃、彼に裏の顔があったことを偶然知ってしまい、そこからは愛し合った幸せな記憶すら、思い出したくなくなった。
煌人は父親がいなくたってまっすぐ育っている。贅沢をしなければ、お金だって大丈夫。
困ったときに頼れる兄もすぐそばにいるし、今さらこの平穏な生活を崩されたくない。