密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
◇確信している御曹司
レンガ風のタイルに、古い掛け時計。テーブル席の椅子は真っ赤な革張りのソファで、カウンターの方はすすけた茶色のスツール。
こもった音の出るスピーカーからは九十年代のクリスマスソングが流れ、私の働くこの店『純喫茶 スプリング・デイ』のレトロ感をますます引き立てている。
「雛ちゃん、俺ナポリタン。食後にクリームソーダね」
「俺、海老ドリア。アイスコーヒー先にちょうだい」
我が物顔で窓際の四人掛けテーブルを陣取ったのは、近所の工務店に勤める作業着姿の男性ふたり組。
だいたい一日おきにこの店でランチする彼らは、ムラのある金髪を立たせて口ひげを生やしているのが佐古田さんで、長めの前髪で顔を隠している猫背の方が稲垣さん。
ふたりとも三十代後半だが独身で、いつもお決まりのセリフを吐く。
「どっかにいい女いないかなぁ」
今日も恒例行事のようにつぶやきながら、彼らは店内の本棚から、すでに何度も読み返している少年漫画を物色し、適当に席まで持っていき読み始めた。