密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~

 煌人の〝パパとしたいこと〟の話には際限がなく、保育園の先生にパパを見せびらかす。肩車をしてもらう。などなど、次から次へと色々な願望を口にする。

 私とふたりのときは、そんなこと一度も言わないのに……。もしかして、今までは遠慮してたの?

 生き生きとした顔で話し続ける煌人を複雑な思いで見つめていると、歩み寄ってきた兄が私にだけ聞こえる声で話す。

「煌人の気持ちもだし、雛の気持ちも……もう少しゆっくり見つめ直してから答えを出してもいいんじゃないか?」
「お兄ちゃん……」
「いきなり元恋人が目の前に現れて、今の雛は感情的になってると思うんだ。もっと冷静になって、じっくり考えて……その上で決めた答えなら、結婚するにしてもしないにしても、俺は応援するよ」

 今の私は感情的、か。たしかに、煌人の気持ちは無視して、ひとりで決断しようとしていた。

 父親に会いたいって思うのは、ごく自然なことなのに……母親だからって、勝手にその権利を奪おうとしていた。

 煌人を育てるうちにわかってきたことだけど、子どもって、大人が思うよりはるかに多くのことを考えている。今まで私に父親のことをあまり聞いてこなかったのも、そうした方がいいと煌人なりに察していたからなのだろう。

 私は母子ふたりの生活を上手くやっているつもりだったけれど、煌人はその小さな胸に、いろんな我慢を抱えていたのかもしれないな……。

< 31 / 175 >

この作品をシェア

pagetop