密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~

「どちらの俺様でしょうか?」

 つっけんどんに尋ねると、スマホから玲士がふっと笑った息が聞こえた。

『株式会社SAKAKIコーヒー取締役社長、榊玲士。きみの元恋人だ』

 甘い低音で〝元恋人〟だなんてさささやかれ、ますます心臓が早鐘を打つ。

「……こんばんは」

 そっけない挨拶を返しつつ、知らず知らずのうちにビールを口に運ぶ回数が増え、頬がじわじわ熱を持っていった。

『ずいぶん他人行儀だな。煌人は? もう寝たのか?』
「……うん。さっき」
『そうか。じゃ、心おきなく口説いて問題ないな』
「え?」

 口説くって、なに? 動揺のせいか、スマホを持つ手が一瞬にして汗ばんだ。

『昼間も伝えたが、俺は別れてからも雛子を忘れたことは一度もない。この四年間、きみを手放したことを後悔する毎日で、胸が張り裂ける想いだった』

 まるで演技とは思えない、切なげな声。しかし、惑わされてなるものか。

「手放して後悔って……〝バリスタとしての私を〟でしょう?」

 玲士が必要としていたのは私ではなく、私のバリスタとしての能力。帰国後にそれを知ってしまった時のショックを思い出し。胸が詰まった。

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