密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~

『どういう意味だ?』

 とぼけるのもいい加減にしてほしい。私はくしゃっと髪をかき上げながら、ずっと胸の中でモヤモヤしていたものを吐き出した。

「……帰国してすぐの頃、見たの。テレビに出ていたあなたを。若くして社長に就任したあなたは報道陣の前でこう言っていたわ。『SAKAKIコーヒーにしかできない、唯一無二のコーヒーショップを作りたいんです。たとえば、季節や天候によって、その日のブレンドの配合を微妙に変え、お客様に特別な安らぎを与えられるような』――って」

 お腹に煌人を宿し、不安とつわり症状とでもともと気持ちが落ち込んでいた当時の私は、そのテレビのせいでさらに精神的に追い詰められた。

 なぜなら玲士のセリフは、付き合っているとき〝彼になら話してもいいかな〟と思って打ち明けた、私の夢の受け売りだったんだもの。

 電話の向こうの玲士は黙っていたが、私はさらに続ける。

「自分が、コーヒーショップチェーンを経営する大企業の御曹司だってことを別れる直前まで黙っていたのも、私に警戒心を抱かせず、最大限の情報を引き出すため。あなたは出会ったときから、自分のビジネスに私を利用するつもりだった。……そうでしょ?」

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