密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
「玲士? ごめんなさい、煌人がトイレで」
『いや、俺の方こそ長々とすまない。少しだが、煌人の声も聴こえてうれしかった。雛子もあまり夜更かししないで早めに休めよ』
なんだろう、このくすぐったいやり取り。
私はまだあなたに気を許したつもりはない。勝手に恋人面をしないで。
胸の内でそう反発しつつも、口に出す勇気はなかった。
「……うん。おやすみなさい」
『おやすみ。……愛してる』
電話を切る直前、内緒話のようにささやかれた愛の言葉が、じわじわと全身を熱くした。
最後にそんな甘いセリフを残されたら、眠りたくても眠れないじゃない……。
胸の内でつぶやいてスマホをテーブルに置き、残っていたビールをごくごくと飲み干す。
いつもならそれで爽快な気分になるのだが、今日は胸になにかがつっかえて、どうにもうまく酔えない。
「……寝よう」
明日も仕事だ。煌人が起きる前に、ひと通りの家事を済ませておかなくちゃ。
歯磨きを済ませて寝室に移動し、子ども用のベッドで眠る煌人の寝顔を見ながら、その隣のシングルベッドに横になる。
ふっくらとしたほっぺ。玲士譲りの長い睫毛。小さな口から漏れる安らかな寝息。
この子の幸せのために、私はどうするのが正解なんだろう……。
いくら考えてもハッキリした答えが導き出せないまま、私は疲労に負けてまぶたを閉じた。