密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
「ここに美女がいるのが目に入らないんですか?」
丸盆の上にアイスコーヒーをのせて彼らの席に近づいていった私は、テーブルにグラスやミルクを置きながら、わざとらしく科をつくってみせた。
春日雛子、二十九歳。美女とはほど遠い童顔で身長は平均より低く、仕事中の服装は、デニムエプロンにカーゴパンツ。
低い位置でゆるくシニヨンにしているセミロングの髪は、手入れ不足で若干パサつき気味。
とまぁ、容姿に色気も女らしさもないのは自分がよくわかっているからこそ、常連さんにこんな冗談が言えるのだ。
漫画から顔を上げた佐古田さんは私の顔をじっと観察し、ため息をつく。
「いや、正直雛ちゃんはどストライクに好みだしかわいいよ。嫁さんだったら毎日早く帰っちゃうね。……でもな、煌人のことを考えたら、俺なんかが父親じゃ申し訳ないだろう」
かわいいというのはお世辞だろうから置いておいて、煌人の名を出された私は苦笑した。
私はこう見えて、女手ひとつで子どもを育てるシングルマザー。煌人はかわいいひとり息子の名だ。