密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
……なんだこのコーヒーは。思いがけない美味しさに、思わずさっきの女性店員を探す。
すると、カウンターの中にいた彼女もまた俺を見ていて、彼女は俺がコーヒーの味に感動しているのを見透かしたかのように、悪戯っぽく笑った。
その一瞬、胸がきゅっと締めつけられたような痛みを覚えて、俺はにわかに動揺した。女性に対して、こんなふうに心が動くことは初めてだった。
すでに三十を迎えていた俺にはそれなりの女性経験があったが、どれもこれも、上辺だけの甘い会話や欲情を満たす戯れに酔うだけの疑似恋愛。
そんな付き合いが長続きするはずもなく、やがて日々の忙しさにかまけて、恋人を作ることすら面倒になっていた。
そんな俺が、たった一杯のコーヒーで落ちそうになっているだと?
なぜだか悔しい気分になり、俺は手招きして女性を自分の席まで呼び寄せ、コーヒーについて尋ねた。
『これは、きみが淹れたのか?』
『そうです。美味しいでしょう』
『ただのアルバイト店員かと思ったが』
『れっきとしたバリスタです。今日のブレンドも私が考えた、雨の日仕様のものなんですよ?』