密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~

『雛子』
『はい』
『唇に飛子がついてる』
『えっ、どこですか? 恥ずかし――』

 とっさに自分の唇に触れようとする彼女の手をつかんでどかし、俺は素早く彼女の唇を奪った。

 薄暗い店とはいえ、カウンターの中にいる従業員からは丸見え。それでもキスしたい衝動に抗えなかった自分に、少し驚く。

 しかしそれ以上に、ワインの香りのする、甘くやわらかい雛子の唇に触れた感動で、俺の胸は震えていた。

『……ごめん、嘘』

 唇を離し、息のかかる距離でささやいた。雛子は困惑して眉を八の字にしている。

『な、なんで……っ』
『隣にいるのは危険だな。……つい、理性が本能に負ける』

 自嘲気味に言って、彼女の頬に手を伸ばす。彼女はビクッと肩を跳ねさせ、怯えたような目をした。

『……俺が怖い?』
『怖いのは、玲士さんじゃなくて……』

 視線を彷徨わせながら、言いよどむ雛子。その口が再び開くのをゆっくり待っていると、彼女は赤い顔でおずおず俺に視線を合わせた。

『簡単に、落ちちゃいそうな自分です』

 言い終えた雛子は、俺から目を逸らして悔しげにきゅっと唇を噛む。その仕草が男を煽るものだと理解せずにやっているのだから、罪である。

 女性の無自覚な誘惑ほど、雄の本能を駆り立てるものはないのに。

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