密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~

 母親からの電話を受けて数日。着々と帰国の準備を進めつつも、雛子にはそれを言い出せずにいた。

 その日も外で食事をした後、俺の部屋で散々甘い時間を過ごし、それでもまだ彼女を離したくなくて、裸のままベッドの中で寄り添い、たわいのない話をしていた。

『私ね、今の店でもっとコーヒーを淹れる技術を磨いて、いつか自分のお店を開くのが夢なんだ』
『……そうか。どんな店にしたい?』
『春には浅煎りの豆を使った軽やかなブレンド、夏にはモカを効かせた爽やかな酸味のブレンド、秋には少し苦みを増やしたしっとり味わい深いブレンド……そうやって、季節ごとに違ったこだわりの一杯を提供して、お客さんをホッとさせるお店にしたいな』

 そう語る雛子のキラキラした瞳が俺には眩しすぎて、直視できなかった。

 ニューヨークで夢を追い続けようとしている彼女に、帰国の話をどう切り出せばいいのだろう。考えてもすぐに答えは出ず、雛子の話に合わせるしかない。

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