密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
『んっ、玲士、どうしたのってば……っ』
戸惑う雛子に気づいていても、こたえてやれる心の余裕がなかった。次第に深くなるキスに、互いの呼吸が荒くなる。
絡ませた舌からとろりと伝ってきた甘い唾液はやがて脳の中枢を侵して、俺は理性をなくしていった。
『雛子、雛子……っ』
抱いても抱いても、心の隙間が埋まらない。いつものように彼女の爪が背中に食い込んでも、それが悦びになることはない。
もっと、強く引っ掻いて。血が滲んだっていい。
きみの痕跡を、痛いくらいに俺に残して――。
俺はその日から会うたびにそんな調子で、さすがに不審に思ったらしい雛子に『事情を話してくれないなら別れる』と詰め寄られ、真実を明かした。帰国を十日後に控えた夜のことだった。
訪れた雛子の部屋で、いつものように彼女はコーヒーを淹れてくれたが、ローテーブルに置かれたカップは口をつけられないまま、徐々に温度を失っていく。
『えっ? SAKAKIコーヒーって、あの……国道沿いとか駅ナカとかショッピングモールとか、とにかく全国にいっぱいあるコーヒーショップチェーンの?』
『そうだ』
『具合の悪いお父さんに代わって、玲士がそこの社長になるの?』
『ああ。取締役会の承認が得られればな』