密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
『そんな……だって私、こっちでまだバリスタの修行を』
『バリスタなら日本でもできるだろう。新たな就職先やバリスタの養成講座なら、俺も一緒に探すから』
俺は雛子をなだめようとしてそう言ったのに、彼女はキッと目つきを鋭くして俺を見据える。
『簡単に言わないでよ……! 今のお店のマスターは亡くなった父の友人で、働かせてもらってる恩もあるし、来たばかりの頃、英語が苦手だった私に代わって、この部屋を探したりもしてくれた。なのに、いきなり店を辞めて日本に帰るなんて……。それに、彼はバリスタの世界大会で一位になったことがある人なの。まだ教えてもらいたいことがたくさんある』
そのときの俺は、雛子がどれだけ真面目にコーヒーと向き合っているのか、わかっていたようでわかっていなかった。
だから、彼女が自分よりバリスタの仕事を取ったような発言がショックだったし、信じたくなかった。
『俺と別れられるのか?』
『そういう聞き方は卑怯よ……』
その日は結局雛子の考えを覆すことができず、俺は落胆しながら彼女の部屋を去った。しかし、簡単にあきらめられるはずがない。