密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
俺は翌日も、そのまた翌日も彼女に会いに行き、一緒に帰国してくれるよう何度も説得を試みた。しかし、帰国直前になっても、雛子のかたくなな態度は変わることがなかった。
『どうしても、残るつもりか』
『何回同じことを聞くの? 私の気持ちは変わらない』
『俺だってそうだ、雛子。……離れても、きみを愛している』
いくら想いを伝えても、雛子は心を閉ざしたように、表情を変えなかった。
どうしたらいいんだと気持ちばかりが焦り言葉を探しあぐねていた俺に、雛子が冷たく言い放つ。
『もう帰って、玲士』
『俺はまだ納得していない』
『お願い。私だって、あなたとの別れがつらくないわけじゃないの。……ひとりにならせて』
『雛子……』
こんなに愛しているのに、手放すしかないのか……。
今まで、欲しいものはすべて手に入る人生だった。努力することさえ厭わなければ、叶わないものはないと思っていた。
しかし……形のない人の心は、掴んだと思っていても、ほんのわずかな指の隙間からこぼれ落ちてしまうのだな。
この手の中にあったはずの雛子の気持ちは、いったいどこへ行ってしまったんだろう。
俺は、雛子との別れにとてつもない喪失感を覚えながらも、家族のため、仕事のために、間もなく日本へ発ったのだった。