密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~

 両親は俺が戻ったことを心から喜んでくれた。落ち込み気味だった父もリハビリに前向きに取り組み、医者の予想以上の回復を見せた。

 とはいえ、今までのように第一線で働くことはやはりできないと、改めて息子の俺に社長職を任せる意思を固め、取締役会もそれを承認した。

 雛子を失った俺は、その日から仕事ひと筋に生きる男になった。

 国内のコーヒーショップでは売上、店舗数ともにトップを誇るSAKAKIコーヒーだが、世界的に見ればまだまだ無名。魅力的なコーヒーショップのブランドとしてその名がもっと広く知れ渡るよう社長として奔走し、それと並行してビジネススクールにも通い、MBAも無事に取得した。

 ……しかし、いくら仕事の忙しさで気を紛らわせていても、ふとしたときに雛子への未練は顔を出し、俺の胸を締めつけた。

 たとえば、重要な商談を成功させたとき、ただただ〝やったぞ〟と彼女に報告したくなる。

 商品開発部が新作を出したときには、どうしても彼女に飲ませて感想を聞きたくなる。

 そうした衝動に駆られるたびにスマホを手に取り雛子に連絡をしようかと迷い、結局は思いとどまる。その繰り返しだった。

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