密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
『春には浅煎りの豆を使った軽やかなブレンド、夏にはモカを効かせた爽やかな酸味のブレンド、秋には少し苦みを増やしたしっとり味わい深いブレンド……そうやって、季節ごとに違ったこだわりの一杯を提供して、お客さんをホッとさせるお店にしたいな』
あのときの彼女の言葉が、SAKAKIコーヒーが新たに目指すべき道筋を示してくれている気がした。しかし、このアイディアは雛子のものだ。彼女に黙って勝手に盗むわけにはいかない。
……ならば、お互いの望みを同時に叶えるというのはどうだろう。
彼女のアイディアを採用した店舗を、SAKAKIコーヒーがオープンさせる。そして、彼女自身にはバリスタとしてそこで働いてもらうのだ。
実現するには時間がかかるが、その頃にはきっと、雛子も胸を張って日本に帰ってこられる、立派なバリスタに成長しているはずだ。そうすれば、俺たちの仲だってまた――。
我ながら名案だと思い、俺はすぐにスマホを手に取った。社長室のデスクの椅子に腰掛け、緊張しながら、数カ月ぶりに雛子の番号に発信する。