密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
本当のことを言うと、私はもっとコーヒーを淹れることに集中したい。豆、挽き方、器具、お湯の温度など、あらゆることにこだわり、一杯一杯丁寧に時間をかけて。
でも、この店ではコーヒーより料理の注文が多い。
元々この店は両親のもので、母が接客、父がキッチンを担当していたのだが、父の料理の腕とセンスが抜群で、地元の人々に愛されていた。
しかし、ふたりとも休まず働きすぎてまともに健康診断も受けておらず、十年ほど前に病で立て続けに他界。
そこで、兄はそれまで勤めていた会社を辞めて店を継ぐことを決断した。
父から料理の腕を受け継いでいたらしい兄は店の評判を落とすことなく、また兄目当ての女性客も獲得し、商売は繁盛。
一方私は大学卒業と同時に、単身ニューヨークへ渡った。
そこには父の友人が開いたカフェがあるのだが、彼がまだ日本にいた頃、子どものくせにコーヒーの味にうるさかった私を『雛子ちゃんはきっといいバリスタになるね』と評価してくれていたのだ。
それを真に受けた私は、自分の進む道はバリスタだと信じて疑わずに、彼の店でバリスタ修行を開始。
楽しいことばかりではなかったが、お客さんが私の淹れたコーヒーで笑顔になったり、ホッとした表情になるのを見ればそれだけで幸せになった。