密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
当時はエスプレッソとミルクで作るラテアートも得意だったが、この店では披露する機会がめったにないので、おそらく腕がなまっているだろう。
「雛、そろそろ迎えの時間じゃない?」
「あ、ホントだ。ごめん、ちょっと行ってくるね」
夕方、兄に声を掛けられて掛け時計を見ると、煌人を保育園に迎えに行くべき午後六時の十分前だった。
スプリング・デイの営業は十九時までなので、いつもこの時間だけ一旦店を抜け、自転車で五分の所にある保育園へ向かう。
そして煌人をピックアップして店に戻り、閉店まで店内で待たせてから、ふたりで暮らすアパートに帰るのだ。
「こんにちはー、春日です」
「あっ、ママ!」
教室を覗くと、煌人は先生より先に私に気づき、駆け寄ってくる。
私のやわらかい猫っ毛とは真逆の、つんつんした硬い髪。凛々しい眉にひゅっと上がった目尻、尖った鼻もすべて、別れた父親譲り。それがとても愛おしくて、ときどき苦しい。