【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
ふたりで大爆笑をして、思わずハッとする。
お腹が痛い。こんなにお腹が痛くなるほど笑ったのは、いつぶりだろう。こんな大声を張り上げたのも…。
目の前に居る奏の大きくて豪快な笑い声につられて笑ってしまった。
ぎゅっと胸を締め付けられる。駿くんの温厚に微笑む姿を思い出す。
ここに来るべきではなかった。こんな楽しい気持ちになってしまっては駄目。思い出は全部捨てると決めたのだ。
もう、奏に会っては駄目だ。彼と再び再会してしまってから、過去へ引きずり戻される感覚に陥る時がある。何も考えずにただただ、一緒にいたいと願ったあの日に。
私は結婚するのだ。
彼ではない、別の人と。
ビールのジョッキを手に持ち、それを一気に喉へ流し込む。
苦い…。頭が少しだけくらりとした。目の前の奏の手に握られている煙草が天井へ向かってゆっくりと煙を上げていく。揺れる世界の先に、あなたの笑顔だけがただただある。
ゆっくりと目を瞑り、小さく頭を振る。…奏とだけは、何があっても楽しい気持ちになってしまっては駄目なんだ。
携帯の画面に目をやると、22時を迎えようとしていた。
伝票を手に持ち、おもむろに立ち上がると奏は煙草の火を灰皿へ押し付けた。