【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
「私、そろそろ…。あんまり遅くなってもあれだし」
「ああ、そうだな。いいよ。ここは俺が払うよ」
そう言って奏は私の手から伝票を奪う。
「そういう訳にはいかないよ。私も半分払う…」
「いや。ここは男にかっこつけさせてよ。それに俺が無理やり誘ったようなもんだし」
「駄目ッ。半分払う。奏に払ってもらう理由がない」
「理由がなくても女に払ってもらうようなかっこ悪い事出来るか」
伝票の取り合いになる。
けれど、奏は一歩も退かなくって、あの頃のままだ。どこで学んだかは知らないけれど、高校時代からどこに行っても支払いは奏がしてくれた。
私にだけではなかったと思う。恋人と呼ばれる女性以外にもお金を出させない人だった。そういう所もモテる要因のひとつだったのかもしれないが。
いつも奏の少し後ろを引っ付いて歩いていた。
あの頃よりずっと落ち着いた色になった髪色。ちょっぴり長い襟足に無造作なパーマ。
15センチの身長差。少し落ち着いて大人になっただけだ。この空気感はあの頃と何一つ変わらない。それがより一層切なさを増幅させる。