【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました

そう言って駿くんは笑っていたけれど、どこかもの悲しそうな顔をする。

母親の事は嫌いではない。それは昔からの駿くんの口癖だった。それと同時に理解出来ないとも言っていたけれど。

片親で育った人の気持ちは私には理解出来ない。だから口ではどう言ってたって、駿くんが幼い頃母親を恋しがっていた時だってあったはずだ。

「それでもまあ、上手くやんなさいよって言ってた。」

駿くんの母親という事は、奏の母親でもある。
そしてその彼女は私と奏が過去に付き合っていた事も勿論知っている。
私は当時よく奏の家に行っていたし、何回か顔を合わせた事もある。

奏と付き合っていた私が駿くんと結婚する。それは母親としてどんな気持ちなのだろう。

布団から出ている手を、ぎゅっと握りしめる。温かい体温。全てを包み込んでくれるような、私はまたそっと目を閉じる。

「母さんが言ってたんだ」

「ん?」

「この間久しぶりに奏に会ったって」

握り締めていた手がぴくりと反応した。 彼の口から’奏’の名前が出るのはどれ位ぶりだろう。そしてどうしてこのタイミングに。

付き合って3年。まるで始めから居なかったようにその名を口にしなかった。それはお互いさまだ。だからどうして、今になってこのタイミングでその名を口にしたのか。

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