【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
「ふーん…そうなんだ…」
声が震えているのは駿くんに伝わっていたと思う。
私は嘘が下手すぎる。目を瞑っていたのがせめてもの救いだった。 それでも私が動揺しているのは彼には分かっただろう。
「奏は大学を辞めた後海外で仕事をしていて、あっちの友人と大きなITの会社を立ち上げたそうなんだ。
その事業が日本に進出してくるって事で日本に帰って来たみたいなんだ。」
「そう……」
「笑真、奏に会いたい?」
「会いたいわけないじゃん。すっかり名前も忘れてたし、今の私にとって関係のない人だもの。元気で何よりって感じ。
それより駿くん、私少し眠たくなってきた。灯り消して貰える?」
「ああ、変な事を訊いてごめん。ゆっくり休みなよ。俺も少し仕事してから休むね。
おやすみ。」
布団を掛け直して、電気を消すと静かに駿くんは部屋から出て行った。
どうして――駿くんはあんな事を私に訊ねたのだろう。 奏に会いたい?なんて…。あれはもう7年も前の事で、終わった事だろう。
そして私は駿くんに内緒で既に奏に会ってしまっている。
あの時に決めたはずだ。3年前に、駿くんに付き合おうと言われたあの日から。私は奏を忘れると。あの日―――。