【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
冷静に。しゃんと背筋を伸ばしてバックルームを歩く。更衣室の前に着いて、ぴたりと足を止める。振り返って笑顔を向けると、彼女は黒めがちの瞳をぱちぱちと瞬きさせる。
改めて顔をまじまじと見つめられた気がする。本能的にヤバいと感じ、視線を逸らして更衣室の扉を開ける。
「ここが更衣室です。
今空いているロッカーはこちらですので、自由にお使いください。
これが鍵で後でネームプレートを張っておきますね?」
ロッカーの前まで案内すると、そそくさと制服を渡す。その間も彼女は私の顔をジッと見つめていた。
「では、着替えたら先程のサービスカウンターの方までいらしてください」
自分でも早口になっているのが分かった。彼女の口元が何かを言いたげに動くのが分かる。それを察してくるりと背中を向ける。
けれどもう遅かった。
「ねぇ、笑真ちゃんだよね?望月笑真ちゃんでしょ?」
「え?」
惚けた振りをして再び彼女と向き直った。
ぱあっと顔を明るくさせて、彼女…佐々木梢は私の腕を両手でぎゅっと握る。人懐っこい性格は歳を重ねても変わらない、か。
それに合わせるように彼女の小さな手をぎゅっと握りしめて、驚いた振りをする。