【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました

冷静に。しゃんと背筋を伸ばしてバックルームを歩く。更衣室の前に着いて、ぴたりと足を止める。振り返って笑顔を向けると、彼女は黒めがちの瞳をぱちぱちと瞬きさせる。

改めて顔をまじまじと見つめられた気がする。本能的にヤバいと感じ、視線を逸らして更衣室の扉を開ける。

「ここが更衣室です。
今空いているロッカーはこちらですので、自由にお使いください。
これが鍵で後でネームプレートを張っておきますね?」

ロッカーの前まで案内すると、そそくさと制服を渡す。その間も彼女は私の顔をジッと見つめていた。

「では、着替えたら先程のサービスカウンターの方までいらしてください」

自分でも早口になっているのが分かった。彼女の口元が何かを言いたげに動くのが分かる。それを察してくるりと背中を向ける。

けれどもう遅かった。

「ねぇ、笑真ちゃんだよね?望月笑真ちゃんでしょ?」

「え?」

惚けた振りをして再び彼女と向き直った。

ぱあっと顔を明るくさせて、彼女…佐々木梢は私の腕を両手でぎゅっと握る。人懐っこい性格は歳を重ねても変わらない、か。

それに合わせるように彼女の小さな手をぎゅっと握りしめて、驚いた振りをする。

< 15 / 263 >

この作品をシェア

pagetop