【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
麻子と別れてから賑わう繁華街の中ゆっくりと歩く。
薄手のジャケットひとつでもう寒くない冬の終わり。もう春はそこまで訪れていた。
奏の明るい笑顔の裏に隠された、あのいつも何も映さなかった瞳の訳。
自分の出生の秘密について、何となく知っていたんじゃないだろうか?
誰にも心を預けなかった彼が、私の前から忽然と姿を消した日。 その事実さえ告げてはくれずに
どれだけ春が巡って来ても、私の前へと姿は現さなかった。足をぴたりと止めて、ベージュのパンプスの先を見つめる。
彼にとって私の存在って何だったのだろうか。少なくとも私は、奏の前でだけでは自分の全てを曝け出せてたような気がする。
それが魂の伴侶という特別な間柄の特権であったのではないだろうか。…いや、奏は私をそこまで思っていなかったのかもしれない。
私の想いの強さと奏の想いの強さは所詮違ったのかもしれない。だって私達は今一緒に居ない。それが証拠か。
「笑真―――」
どうしてこういう時に会ってしまうんだろう。神様って本当に居るんじゃないだろうか。
神様はその人に必要な時に必要な人を側に置いておく、そんなロマンチックな話をしたのもこの人とだった。
その声で、その呼び方で、振り向かなくても誰かは分かってしまった。