【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
分かっているのか分かっていないのか。奏はへらっと笑ったまま手に持っていたレモンティーを飲み込んだ。
大体今日は会社の飲み会だった訳でしょう?一体何の為に私を引き止めたというの?こんな所で呑気にお茶をしてる場合じゃないのに。
人を引き止めた癖に隣に座り無言で真っ暗な空を見つめる。
…何を考えているの?今日麻子と話していた事を思い出した。
奏と駿くんは父親が違う。DNA鑑定をして、高瀬の人間ではないと分かった。
真っ黒の瞳は、何も映さない。いつだって空虚だった。あの頃その瞳に映る悲しみの理由を、ずっと知りたかった。もしかして奏は、ずっとずっとその事を知っていたんじゃないかって。
「ねぇ…」
「ん?」
こちらから声を掛けると、こちらを振り返る。その表情は余りにも無垢だった。
「どうして私の前から姿を消したの?」
今日は三日月だった。真っ暗な空の中にぽっかりとそこだけ切り取られたように映し出される。
それは切ない。けれど、その光りに照らされた奏の顔はもっと切なく見えた。ぎゅっと握りしめたペットボトルは手の中で汗を掻いている。