【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
「そんな風に奏くんに想われる女性が羨ましかった。
望月さんもですよね?奏くんと同じ気持ちですよね?」
原田さんの言葉に苦笑いするばかりで、何も返す事は出来なかった。 それを口にしてしまう事が怖かった。
口にしてしまったら想いが溢れて、きっともう止まらなくなってしまう。そんなの、奏と再会した時から分かっていた事なの。
少しして、息を切らせた奏がこちらへとやって来た。
いつもはラフな格好をしているくせに、今日は何故かスーツを着ていた。スーツをきちっと着こなす奏なんて、私の中でイメージはない。
「美園ちゃん、ありがとう。」
「いえ、じゃあ私はこれで。工事の人に見積もりの件の話もしておきましたので先に会社に帰ってます。
じゃあ、望月さん。さようなら」
ぺこりと頭を下げて、原田さんはその場を去って行った。
奏の事が好きなのは、映画館で偶然会った時から分かっていた。奏を見つめる目を見て、直ぐに分かった。
だから彼女にとって私は邪魔なはずなのに、なんてさっぱりとした人なんだろう。
好きな人が自分を好きじゃなくっても幸せを願えるなんて、私より全然人間が出来ている。
息を切らせてやってきた奏は私を見るなり、口を大きく広げて笑った。見た目は大人になったくせに、その子供っぽい笑顔は何も変わらないんだから。