【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
「何よ、IT企業に勤めてるからってえっらそうに!
今にして思えば黒歴史なんだから止めてよね」
「俺にとっては黒歴史なんかじゃないけれどね、あの頃が1番楽しかったし」
’あの頃が1番楽しかった’それには同意だよ。けれどそれって本心で言っているの?
この街には奏にとって楽しい思い出ばかりではなかったはず。それどころか苦しんでいた日々だった筈だ。
私達はもう大人だ。だからある程度の事ならば笑って話せる。
けれど多感だったあの頃に自分の出生の秘密を知ってしまった奏は、この街でどんな気持ちで過ごしたのだろう。
「あそこ!よく溜まってたコンビニ!」
ぐいっと腕を引っ張り私の手を掴んだ奏が指をさす先。無限に続くと思っていた時間。いつだって暇を持て余して、どこかに行けば誰かに会えると信じて
毎日何か楽しい事ないかなーって口癖のように言っていた。そんな何気ない時間が楽しかったと気が付いたのは、いつだって失った時だ。
「えぇー?ここってファミマだったっけ?」
「3年前くらいにローソンからファミマに変わったのよ」
「マジで…。ちょっとショックなんだけど。
笑真コンビニはローソンが1番好きだって言ってたよな」