【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
あの時の麻子の顔ったら傑作だったな。
昔から学級委員長タイプだったけれど、奏を含む男の子たちに本気で切れて、私はその様子を見て笑ってたっけ。
馬鹿みたいな事をして、ただただ笑い合う時間だった。あの時間がずっと続いていくと信じて疑わなかった。
そんな事をふと思い出し、沈みかけた空を見上げるともっと切なくなる。
戻りたい場所があった。決して戻れない場所も。
だってその証拠にあの頃当たり前に隣にあった存在は、もう当たり前じゃない。
「あの頃に戻りたいなぁ…」
ぽつりと奏が零した言葉。同じ気持ちで空を見つめていく。
「奏、あのね…。」
「ん?どうした?」
「私ね、実は今マンションを出てて、麻子の家に居るの」
こっちを振り向いた奏の顔が、夕暮れに染まって淡いオレンジになっている。
驚いたように目を見開いて、そこで会話が止まる。
「駿くんに言ったんだ。結婚をもう一度考えさせてほしいって」
そこまで言ったら、ぐっと奏の表情が苦しそうに歪んだ気がする。
「それって、俺のせい?」
首を横に振る。決して奏のせいではないと思う。7年ぶりに再会をして、心が動かされたのは間違いない。