【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました

「何考えてるの?」

下からそっと奏が私の顔色を伺う様に覗き込む。

「うん。ちょっとね」

「麻子の家に帰る事はない。行く場所がないならここで暮らせばいい」

平然とそう言い放った。

「でもさ…」

だって私達は一夜を共にしたからと言って、付き合っている訳じゃない。

奏にそう言った類の事は言われていない。昔から好きや愛してるを言葉にして上手く伝えるタイプではなかったが…。

言葉にしなくても、確かめなくても、いつだってそこには安心感があった。

「ここが気に入らないなら、どこかマンションでも借りてあげようか?
安月給の会社員は都内で一人暮らしも大変なんだろう?」

くすりと奏が小さく笑う。
…確かにそりゃーそうだけど。

「兄貴が住めるくらいのマンションならば俺でも借りる事は出来るさ。
それでも君は気遣いやさんだから全部男に頼りたくないって言うんだろう?
それなら自分の出来る範囲で補填すれば良いから」

言わなくたって、言葉にしなくたって、この人には私の事お見通しなんだろう。
そんな細やかな気遣いを見せるタイプの人間だった。
と、いうか奏はそれで本当にいいのだろうか?私の事…本当はどう思ってるんだろう?

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