【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
「ごめ…本当に…ごめんなさい…」
顔が上げれなかった。あんなにも優しくしてくれたあなたの笑顔を歪ませた顔が見たくなかったから。
駿くんがその場でしゃがみこんだのが、影で分かった。
そして床についた私の手の先に自分の手のひらを重ねる。
温かいその手に何度助けられたんだろう。
「笑真、顔を上げて?」
ゆっくりと顔を上げると、目の前に居た駿くんは優しく私の手を取り、けれど笑っていた。
ぞくりと身震いがしたのと同時に、力の抜けた体を立たせると同時に側にあった段ボールを思いっきり足で蹴り飛ばした。
中に入っていた衣類が音も立てずに、その場に散らばって行った。
「駿く……」
「そんなの、許さないよ」
抑揚のない声。そんな駿くんの声を聞いたのは初めてだった。
私の手を握る力が強くなっていく。それは痛い程に。
駿くんの柔らかく笑う優しい笑顔。それはいつもと同じはずなのに、何故こんなに怖く感じるんだろう。