【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました

現在もあの街で小さなスナックを営む奏たちの母親は、奔放な人だった。

私も数回会った事があるが、常識に囚われるタイプの人ではなくどこかあっけらかんとしていた。対して父親の方は物腰は柔らかく見えるが厳格そうな人で

奏が自分の子供じゃないと分かった途端、切り捨てた。

「俺はあの人が男にだらしないのをずっと間近で見て来た人間でさ…
だから兄貴にとってあの人の存在がそんなに大きい物ってのはにわかに信じ難いなんだけど」

「それでも駿くんにとっては特別な人だったのかも…。私にも分かんない。駿くんは少しもその話をしてくれなかったから。
それに何かあの口ぶりだったら…駿くん奏の本当のお父さんも知っている風だった…」

その言葉に大きく目を見開いて、真剣な顔をする。
けれどそれは直ぐに乾いた笑いへ変わっていった。

「まさか…。母親自身も俺が誰の子が分かってない感じだった。」

「でもあれは…。駿くんの言葉通りだったのなら、奏のお母さんは駿くんのお父さんより奏のお父さんの方を愛してたっていう言い方だった…」

「そんな事…」

奏の口が閉じる。何かを言いかけて止めた。そんな気がした。

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