【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました

「ん……」

唇を離すと、また無邪気な笑顔を私へ向けるの。

「奏、もう私から離れないで…」

「もう絶対に離さない」

あの日の不安全てを取り除けた訳ではない。 今目の前に居る事さえ、いつか夢になってしまうかもしれない。

でももう決めたんだ。

たとえ今度あなたが私の目の前から姿を消したとしても、ずっと待ち続ける。

誰かの優しさに甘えたりはしない。縋り付いたりはしない。 忘れられない気持ちを無理に忘れようとはしない。その結果が誰かを傷つける事になるならば。

「笑真…。やっぱり兄貴には俺が話をつけにいくから」

「でも……」

「いいから。 それに兄貴がもしも俺の本当の父親を知っているとしても、今はあんまり興味がないかな…。
昔は自分の出生の秘密を知りたかったけれど、そんなのどうでもいいって思い始めている。
だって俺の側に笑真が居てくれるなら、過去の自分の事なんかいいかなって思えるんだ。
俺にとって笑真と離れる事になる方がずっと辛い」

「奏…」

もう二度とこの手を離さない――。

この手を離して、たとえ許されようと元の生活には戻れない。

無理に忘れようとして誰かの色に染められたとしても、そこにある自分さえも捨てきれない。
あなたの前でだけ安らぎの息を漏らす自分がどこかに居る。

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