【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました

「駿くんは働きすぎなんだから少し位休んだっていいよ。
たまにはさダラダラしちゃって、ソファーで寝っ転がってデスクワークでもすればいいよ」

私の言葉に駿くんは眼を丸くする。

「あ……駿くんがそんな事する訳ないっか…。
誰も見ていない所でだって気を抜かないもんね」

ふぅーっと小さく息を吐いて、珈琲カップをテーブルの上に置いた駿くんは「それもいいかもね」とらしくない言葉を口にした。
ほんの少しだけ安堵の表情を見せたような気をする。

「ずっとさ…」

「ん?」

話し始めた駿くんは私の方を向かずに、真っ直ぐと視線を投げた。

いつも人の目を見てきちんと話をする人が珍しい。けれどその真剣な横顔に思わず見入ってしまう。

「きちんとしなきゃって。しっかりとしなきゃって思って生きて来た気がする。
そうじゃなきゃいけないって。親が離婚してからはなおさらそう思った気がした。
母さんが出て行った時奏はまだ小さかったから何も覚えちゃいないだろうけど、俺ははっきりと覚えているんだ」

懐かしそうに昔話を始めた。自然に奏の名前を出てきた事にも驚きだったけれど、こうやって過去の話をしてくれるのも初めてだ。

断片的に事情は知っていたが、詳しくは知らなかった。そんな私にぽつぽつと話をし始めた。

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