【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
どうして私達は、もっときちんと向き合わなかったんだろう。
駿くんが喜ぶから、彼に合わせて生きて来た。彼の喜ぶこと。彼の望む事をして、彼の理想の人になりたくって。
もっと本音でぶつかりあっていたら良かった。 本当の笑顔を見せてあげれば良かった。
どうして今更になって、気が付く事ばかりで。
駿くんが珈琲カップを再び手に取る。 きっとそれはとっくにぬるくなっている。淹れなおそうとした時だった。
「駿くん、珈琲淹れなおすよ」
「いいよ。そんなの自分で出来る。
それよりそろそろ時間かな?来たんじゃないかな?」
「え?」
駿くんが腕時計に目を落とす。
それと同時にマンションのインターホンの音が鳴った。
松葉づえをつきながら玄関までゆっくりと向かう駿くんは、途中足を止めてこちらを振り返る。
そしていつもと変わらない笑顔を向けて言った。