【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
傘はいらない。
雨の日もある。けれどいつか晴れ渡ってくれるはずだから
びしょびしょのまま奏が私の体を引き寄せる。
「ちょっと、こんな街中で」
「アメリカスタイルだもん」
「もぉー…それよりどこかに入ろうよ。このままじゃあふたりしてずぶ濡れになっちゃう」
「お前はさー久しぶりに会えたつーのに、感傷に浸る間も与えてくれないのかよ。
大体1年前に俺がついてきてくれーって言ったにも関わらずあっさりと私は行かないって言ってさぁ。
薄情な女だ。笑真は」
奏の相変わらず冷たい指先が、抱きしめながらも私の指先を擽る。
「だって私の人生だもん。何でもかんでも奏には決めて欲しくないね。
それに絶対に帰って来てくれるって信じてたもん。」
「でも、これからの笑真の人生は俺に頂戴ね」
「それってどういう…」
不意に左手の指に冷たい感覚。奏の体温でも雨の冷たさでもない。これはどちらかというと、金属の冷たさだ。
ゆっくりと体を離し、先ほど奏が擽っていた左手を空に掲げる。
左手の薬指、ぴったりとはめられた二つの指輪が光る。