【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
ビニールテープで角は頑丈に張り付けられている。無心のままびりびりとそれを破って行く。
パンドラの箱。開けてはいけないもの。触れてはいけないもの。希望なんて残っているわけもない。
’宝物をためて行くの!’そう言った17歳の時に開けて、20歳の時にそれを閉じてからは、一度も開けた事は無い。けれどもずっと捨てられずに来た。
深呼吸をして、こずの言葉を思い返す。
’奏、3年になる時に中退したんだよ?’
’海外に留学するって聞いたけれど、地元の友達にもろくに連絡も残さなかったみたい’
’ずっと日本には帰ってきていなかったけれど、半年前に奏の姿を見たって友達も居て’
何も知らなくて当然。知っていてはいけなかった事だ。
息をゆっくりと吐きだすと、ゆっくりと箱の蓋を開ける。ふわりと懐かしい香りがする。吸い込まれるように過去に引き戻されていく感覚。
匂い、とは不思議だ。
こんな話を聞いた事がある。嗅覚とは五感の中で唯一大脳と繋がっていると言う。だから記憶を呼び起こされても何ら不思議な現象ではないという事。
この箱からは、あの頃お揃いにしていた香水の爽やかな海の匂いがする。それと同時に過去の記憶がぶわっと引き戻される。