【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
「――大変長らくお待たせしました。
9時30分より、13番スクリーンにて上映いたします、雨のメロディをご覧のお客様、ただいまより入場を開始致します。
チケットをお持ちの上、劇場入口までお越しくださいませ」
そのアナウンスが流れると同時に女性は彼の手を引いて、劇場内へ駆け出そうとする。
手を引かれた彼はまだ私を見つめていた。驚くでもなく、笑うでもなく、ただただ無表情に。そして私も、そんな彼の姿から目が離せなかった。
劇場内の暗闇に呑み込まれていくまで、ずっと。
「笑真、お待たせ。トイレすっごい混んでたよ
笑真?」
「あ、ごめん」
駿くんが戻ってきて、不思議そうな顔をする。
まるで時間が引き戻されるような感覚だ。
あれが夢?…あれから時は7年近く過ぎた。だから夢だといった方が説得力がある。
顔だって遠くから見ただけだし、はっきりとは見ていない。…けれど、私が彼の…奏の笑い声を聴き間違える筈がない。
「劇場のアナウンス流れた?」
「ううん。さっき雨のメロディのアナウンスが流れただけ」
「そっか。まだかなぁ」
駿くんが腕時計に目を落とすのと同時に、私達の見る予定だった映画のアナウンスが流れた。