【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
「あ。丁度始まるね。笑真、行こう」
「…うん。」
ぎゅっと握られた手は温かかった。手を引かれるまま、劇場内へ入って行く。
それでも私は、さっきの夢のような光景が忘れられなかった。
映画の内容は余り頭に入って来なかった。 シーズン1も見た筈だったのに、字幕に目が追い付かなかった。
前の作品が大ヒットを飛ばしたから作られた続編。面白くない筈はない。場内の椅子もほぼ埋まっていたし、それ程期待された作品の新作。
それなりに面白くよく作り込まれた映画ではあったと思うが、前作からまた続編を観たいと思う程好きな作品ではなかった。
けれどもちらりと隣を座る人を見ると、満足気な表情を浮かべている。
2時間の映画がいつもよりも長く感じられた。
上映が終わって、劇場内から出るときょろきょろと周りを見回した。
誰かを探している自分がそこにいる。それは映画を見ると言う行為よりもずっと大切だった気がする。
居ない…。
雨のメロディは私達が見た映画よりも先に上映された。だからもう帰っていたとしてもおかしくはない。それでも私は探してしまっていたのだ。
チケット売り場、飲食コーナー。グッズ売り場も。けれどどこを見回しても、先ほどの彼の姿も笑い声も聴こえはしなかった。