【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
「俺、ビニール傘しか基本的に使わないんだよね。だって直ぐ失くしちゃうじゃん」
「ですが長く使うのであれば、少し値の張る物の方が…」
何故か店員口調になってしまう。
けれど傍から見れば、異常な光景だろう。 今にも再び腰を抜かしそうな私は、奏の手によってその場に支えられている。
制服を着ているだけで、私は現在仕事を放棄しているただの望月笑真だ。
「だから、失くしちゃうって言ってるじゃん」
「そうですね。あなたは昔から物を大切にしない人でしたね」
「何その口調。マジで笑えるんだけど。それに失礼だね、これでも大切な物は大切にするタイプだったと思うんだけど、昔っから。
でも傘はついつい忘れちゃうから。良い奴を買っちゃったらどこかに忘れてしまった時悲しい気持ちになっちゃうじゃない」
少しだけ癖のある声。よく動く口は、大きくて何も変わらない。
昔と比べて髪色や服装は落ち着いているけれど、根本的な所は何も変わらない。
「て、ゆーかそもそもの疑問。
何故ここに居るの?」
「だからそれはさっきも言った。打ち合わせで近くまで来た。雨に打たれた傘を買いに来た」
「私が言いたいのはそういう事ではなくって…!」