【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
「ビニール傘を探そうとして店内を彷徨っていた。
そうしたら偶然会ったんだ。宇沢梢に。」
「今は佐々木さんですけど…」
「そんなんどっちでも良いよ。取り合えず梢に会ったんだ。梢はぷっくり太ってて初めは誰か気づかなかった。どこのおばさんに声を掛けられたかと思ったよ」
「さらりと失礼な事を言うの止めなさいよ」
その発言に、フロア中に響き渡るような大声で笑いだした。
買い物をしているお客さんの視線が突き刺さる。鼻に人差し指を充てて「シーッ」と言ってはみたものの、客の手を握り締めてその場で硬直している社員では説得力はないだろう。
「梢と立ち話してて、笑真がここで働いてるって聞いたんだ!
どこに居るのかなーって探してたら、浮かない顔して傘を出してる笑真が居てさ」
「浮かない顔って…」
相変わらず言いたい事をハッキリという男だ。そういう所は全く変わっちゃいない。
もう、腰を抜かす事はあるまい。パッと手を離して、さっき尻もちをついたスカートの埃をはらう。
「ビニール傘でしたら、さっきも言った通り1階の食品売り場の近くにあるサービスカウンターに」
言いかけて、奏が人の話を遮った。
「本当に久しぶりッ。俺ちょっと前に日本に帰ってきたばかりなんだよね」
「それは聞いております」
「あは、だから何だよ~その敬語。マジでウケる~…。」