【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
きっと奏は気づいていない。
数日前に映画館で私と会った事に。当たり前だけど――
けれど、今日改めて会って確信した。あの日、会ったのは確かに奏だった。
遠目からでも気づいてしまった事。髪型や服装が変わっても、あの笑い声を忘れる事が出来なかった自分には愕然としてしまう。
「ねぇ、これからちょっと時間ある?話でも」
「私は就業中ですので」
奏の目も見ずに、ハッキリと言った。
その時目の前から鮫島課長が小走りでやって来るのが見えて、思わず奏の側から離れる。
「鮫島課長。傘の在庫分は出しておきました。最近は天気も不安定ですし、雪が降ったら傘を買うお客様も増えると思うので多めに発注しておいてもいいかもしれないですね」
「あぁ望月さんありがとう。
全く困るね、さっき天気予報を見たら朝とは変わっていて夜更けまで雨は続くそうだよ」
「そうなんですか?傘持ってきてないから、ビニール傘買って帰らなくっちゃ…」
「望月さんもうちで1本良い傘を買っておくといいよ。最近は結構お洒落で可愛い傘も多いしね」