【完】今日、あなたじゃない彼と結婚を決めました
「あの頃の笑真も好きだけど、今はもっと好きだよ…
本当にあの時の笑真は無邪気に笑っていて、」
ぴたりとそこで言葉が止まる。眠ってしまったかな?と顔を近づけて見ると、安らかな寝息が聴こえ始めた。
「愛してるよ……」
もう途切れかけの声だった。そっと布団を掛けると、静かにその場から立ち上がる。
可愛い、好きだよ、愛している。そんなくすぐったくなる言葉を、駿くんはいつだって何度だって投げかける。
私も愛している、途中まで出かかって止めた言葉たち。今まで何度こんな事があっただろう。 こんなに駿くんは真っ直ぐに私へと想いをぶつけてくれるのに…。
私との結婚を決めてくれて、未来の事を考えてくれているのに、プロポーズされた日から、どこかふわふわとしたまるで地に足がつかない感覚だった。
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「すいません。ネクタイってどこにありますか?」
余所行きの声にもう騙されはしない。
声の方向を向きもせずに無視をし続けて、商品の陣列を直していた。
だってこいつはネクタイなんて買うつもりはない。そもそもネクタイなんて必要とはしないラフな格好をしている。